恋人

 

 恋人がいる。とても、好きな人がいる。恋人というより、パートナーとか、人生の証人とか、そういう言葉が似合うのかもしれないけれど。

 

 「付き合う?」「……え?」

こんな会話で始まった関係だった。

 

 すごく悲しそうな涙声がiPhoneのスピーカーから聞こえて、どうしてこのひとが泣かなきゃいけないんだ、そんな世界を、わたしはゆるせない。そう思った。絶対に相手の元恋人よりしあわせにできる自信があった。このひとがしあわせで、笑顔でいられる世界線をわたしが作る、という決意に満ちていた。わたしは自分に自信がない人間だ。でも、これに関してはわたし以外にできるのか?いやできない、わたしにしかできないことだ、と、思った。相手もわたしも、元恋人のことを強くこころに思っていたから、相手は不安がったが、最終的にお付き合いをする運びとなった。

 

 共有するものが増えた。それは単純に時間だったり、感情だったり、過去だったり。お互いにいつも聴いている音楽を寄せ集め、プレイリストを作って交換したりもした。たのしい。毎日がたのしくて、きらきらかがやいて、ああ、なんとなくしあわせだなぁ、と思う。ぼんやりしているとき、じんわり多幸感が湧いてくる。しあわせで、涙がこぼれそうになるときもある。

 

 これから、何があるかは分からない。お互いに病気を抱えているし、遠距離恋愛であるし。でも、ぜんぶ抱きしめて乗り越えていけたらと思う。お互いが心地よい関係を構築したい。相手をしあわせにしたい。だって、好きだから。恋人が笑ってくれる世界線で息をしたい。ふたりで世界を創っていけたら、きっと今よりしあわせになれる。今がいちばんしあわせだから、想像できないけれど。大丈夫だ、ふたりなら。

 

 どうか、となりでわらっていて。わたしは、あなたが好きだ。

 

 

アイドル

 

 アイドルが好きだ。彼女たちは、人生においていちばんうつくしい場面を切り取って、それをわたしたちに魅せてくれているのだと、勝手に思っている。胸の奥の、鼓動を感じる。それはきらきらと輝いて、多くのひとの胸の奥に宿る。だから惹かれる。引力がはたらく。いのちを燃やして、ステージに立っている姿にいつも勇気づけられ、励まされている。

 

 感情や感性がふっと無くなってしまうときがある。負の感情すら消えて、ほんとうに何も無くなってしまうのだ。そういうとき、こころを思い出させてくれたのが、アイドルだった。今まで何も感じなかったのが嘘のように、モノクロの世界が色づいた。

 

 

 6月24日、応援している「Maison book girl(通称ブクガ)」というアイドルが、『Fiction』というベストアルバムをリリースした。初回特典には詩集と、年始に行われたライブの映像がついていた。

 

 ブクガの世界が少しずつ変わりはじめている。そう思った。初期からの世界観はまったくブレていないのだが、真っ暗な海底をただよっていたイメージに、すぅっと光が差し込んだような、血の通っているあたたかさがあるような……。透明な万華鏡(イメージ)に近いのではないかとわたしは思った。ずっと聴いていても苦痛でない。心地よい音、歌声。いろんな角度からうつくしい景色がにじんで、移り変わってゆく。最初は、ああ、うつくしいな、と、みているだけでいい。でもその背景には考え抜かれた物語があり、それが明かされたときにハッとする、何度でも楽しめるアルバム。

 

 たくさんの人に聴いてほしい。ライブ映像を観てほしい。詩集を読んでほしい。好きになってほしい。『Maison book girl』。本の家の少女たちが織りなすうつくしい世界の、目撃者になれる。この世界線を生きていて良かったと、心から思う。

 

 

『夢』MV  https://youtu.be/DwcKed26KQ8